Masashi Takata 2022 / No.52 (Antonio de Torres 1856 / FE04 - La Leona)

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Masashi Takata 2022 - No.052 “La Leona”
Antonio de Torres 1856 - FE04 model


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1856年に製作されたLa Leonaは、トーレスが遺した楽器の中で最も特異な構造を持つギターであり、その独特の響き故に多くの演奏家を魅了してきました。数あるトーレスの名器の中で、何故このギターにだけ“獅子”という勇ましい名が与えられたのか、その理由については、構造を忠実に再現することによって私なりに理解することができました。弦長は649mm。これは私が製作した52作目のギターです。

表板は、ヨーロピアン・スプルースです。表板の構造はオリジナルに準拠しています。La Leonaの表板に於ける注目すべき点は、金属製のトルナボスと横向きの響棒です。トルナボスは、サウンド・ホール部分に取り付けられる円錐形の筒で、真鍮板で作られています。横向きの響棒は、建物で言うところの“梁”のようなもので、通常はサウンド・ホールの上部と下部に一本ずつ接着されます。しかし、La Leonaの場合、下部の響棒が表板に一切接しておらず、高音側と低音側の横板を橋渡しするように設置されています。おそらく表板の自由な振動を想定したのだと思われますが、このままでは弦の張力によって表板は沈み込んでしまうかもしれません。その為、トルナボスと裏板の間に二本の支柱を立て、表板の陥没を防いでいます。この支柱は、ヴァイオリンに於ける魂柱のような役割を果たしている可能性もあり、材質や寸法、取り付ける位置によって楽器の反応を変える事が出来るかもしれません。また、硬質な表板とのバランスを取る為、このモデルではトルナボスに極薄の真鍮板を使用しました。

ロゼッタは、いくつかの装飾線で構成された極めてシンプルなデザインです。おそらく全てのトーレスの作品の中でも最も地味なロゼッタですが、トーレスの凄いところは、どれだけ質素な装飾であっても例外なく美しさを備えている点です。まるで筆で描いたような温かい質感を再現する為、装飾線はローズウッドとメープルの厚板から鋸で切り出し、一本ずつ手作業で削り出しています。出来合いの材料を使用すれば作業時間を数十分の一に抑えることもできますが、そこに魂を宿す自身はありません。

裏板と横板は、インディアン・ローズウッドです。裏板の継ぎ目の補強は、トーレスも度々使用していた亜麻布です。バインディングはカーリー・メープルです。La Leonaは、通常のトーレスのギターに比べて補強材が少なく響板が脆弱ですので、この楽器では横板の一部(ネック接合部)をローズウッドとスパニッシュ・シープレスの合板にしています。これは実験的な試みですが、ネック接合部の剛性が増したせいか、音に張りと芯が生まれたように感じます。

ネックはセドロです。指板は黒檀で、オリジナルのLa Leonaのように極限まで厚みを薄くしています。フレットは、1~12フレットが通常のT字型で、13~19フレットは真鍮製のバータイプです。このユニークな仕様は、トーレスと親交のあった人物の証言に基づいており、La Leonaの指板を忠実に再現したものです。トーレスは、上等な楽器にはT字型のフレットを使用し、安価な楽器には真鍮製のバーフレットを使用していたようですが、なぜ、このような仕様になったのかは分かりません。単純にT字型フレットが足りなくなった為にバーフレットで代用しただけかもしれませんが、もしかすると作業を容易にする意図があったのかもしれません。12フレット以降を打ち込む際、表板の内側に当て木をしてハンマーの打撃を緩衝しなければ最悪表板を割ってしまいますが、トルナボスが邪魔をしてサウンド・ホールに手を入れることができません。しかし、バーフレットであれば、基本的に膠(にかわ) で固定が可能ですので強く叩き込む必要がありません。La Leonaは、トーレスが初めてトルナボスを用いたギターの可能性が高く、トーレスも作業的に不慣れであったのかもしれません。実際、私自身もこの仕様のお陰で、ストレスなく作業を完遂する事ができました。バーフレットなど市販されていませんので、真鍮板から一本ずつ手作業で切り出し製作しています。

ブリッジはサドルを持たないリュート様式で、弦留めのブロックから直接弦を張るタイプです。このブリッジこそLa Leonaの性格を決定づける最も重要な要素であると思われます。この古典的なブリッジの最大の欠点は、弦を通す穴の高さが固定されている事です。もし何らかの原因で弦高に変化が生じても成す術がありません。私はかなり長い間思案し、ある解決策を思いつきました。一見するとオリジナルのブリッジとなんら違いはありませんが、実は、タイブロックの前面は取り外し可能な“パネル”になっています。つまり、このパネルに開ける穴の高さを変えることで、僅かながら弦高の調整が可能になります。パネルの固定方法は『引き戸』から着想を得ました。押しても引っ張っても外れませんが、パネルを高音側へ僅かにスライドさせ手前に引っ張ると外れます。外観上ではこの構造を判別するのは難しく、元の美しいデザインを保っています。このアイデアを実際に形にして分かった事は、極めて自由度が高いという事です。むしろサドルを持つ一般的なブリッジの方がよほど制約が多いような気さえします。2つの穴に弦を通さなければなりませんので、弦を結ぶのに少しコツが必要ですが、ブリッジ内部に弦のガイドとなる傾斜を設けていますので、慣れれば問題はないと思います。ブリッジの材質はマダガスカル・ローズウッドで、パネルはハカランダです。現在の12フレットに於ける弦高は、1弦で約3mm、6弦で約4mmです(弦高は、ブリッジ側の弦の位置関係で僅かに変動します)。

糸巻きは木製のペグです。現在のLa Leonaには機械式のペグが装着されていますが、これは後に改造されたもので、木ペグこそLa Leonaの本来の姿です。ノミやヤスリを用い、黒檀のブロックから一本一本手作業で削り出しています。モダン・ギターに於いて木ペグの需要などほぼ皆無ですが、私は木ペグのギターしか製作しません。朴訥とした質素な外観は、楽器に謙虚な芸術性を与えてくれます。

塗装は、シェラックによるフレンチ・ポリッシュです。ほとんど目立ちませんが、裏板に小さな虫食い穴がいくつか見られました。ローズウッドなので埋めて完全に隠す事も出来ましたが、これもこのローズウッドの個性なので敢えて埋めませんでした。塗装面に、最終調整時に付いた傷、擦れ等が見られます(繁雑な調整が必要な為)。

ラベルは、私自身が彫った版画で印刷しています。ラベルに使用した紙は、古い北欧産の洋紙です。

『La Leona』という名前の由来については、特徴的な構造を再現することによって私なりに理解することができました。この勇ましい名前を決定づけたのは、間違いなくブリッジの影響です。リュート様式のブリッジから生み出される歪みを含んだ音が、金属製のトルナボスによって増幅され、その地響きのような音がライオンの咆哮をイメージさせたのだと思います。この楽器も含め、これまでに8本のLa Leonaモデルを製作しましたが、いずれも同じ音の傾向を示しており、これがLa Leona特有の音であると確信しています。ただし、木と金属の経年的変質の差異によって、今後大きくバランスが変わってくると思いますので、この特徴的な歪みは徐々に消滅していくのではないかと私は予測しています。弦長は、La Leonaに準拠し649mmで製作し、650mmへの安易な改変は行いませんでした。表板の構造は、繊細なLa Leonaに準拠していますので、弦やピッチの選択には試行錯誤を要すると思われます。

現在のLa Leonaは、獣骨で作られたドーナツ状のチップで弦が留められているようです。すなわち、サドルを介して弦を張った時と近い


《楽器の詳細》

* 表面板 : ヨーロピアン・スプルース
* 横板 : インディアン・ローズウッド
* 裏板 : インディアン・ローズウッド
* ネック : セドロ
* 指板 : 黒檀
* ブリッジ : マダガスカル・ローズウッド
* ペグ : 黒檀
* トルナボス : 真鍮
* ナット : 牛骨
* 塗装 : シェラック
* 弦長 : 649mm(La Leona : 649mm)
* ボディ長 : 465mm(La Leona : 464mm)
* 上部幅 : 262mm(La Leona : 263mm)
* 腰部幅 : 228mm(La Leona : 229mm)
* 下部幅 : 342mm(La Leona : 343mm)
* ネック部の胴厚 : 91mm(La Leona : 91mm)
* エンド部の胴厚 : 97mm(La Leona : 97mm)
* サウンド・ホール径 : 86mm(La Leona : 86mm)
* ネック幅 : ナット部 50mm、12フレット部 59.5mm
* 弦幅(1~6弦) : ナット部 43mm、サドル部 55.5mm
* 総重量 : 1,304g(ナット、弦、ペグを含む)
*ケース : 発送用ハードケース(非純正)













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